
愛するが故、敢えて苦言を呈する
2006年のプロ野球のストーブリーグ・FA市場の目玉の一つ、我らが広島カープのエース黒田博樹投手の決断が下されました。
出した結論は「FA宣言をせずに残留」でした。まずはほっとしました。今シーズンのカープの投手陣を見たときに、彼が抜けた後のローテーションは一体どうなってしまうんだろうと…まあ投手陣が悪いのは別に今に始まったことじゃないですが。
正直、嬉しかったのですがそれと同時に広島球団の体質改善には繋がらないのではないか、と不安を抱くことにもなりました。
というのも、毎回主力選手であっても球団側はFA宣言をしてのチーム残留を認めてきませんでした。その背景にあるのは資金力に乏しいチーム事情があるからです。FA権を行使すると、必要以上に契約金や年俸の高騰を招き、資金力のないカープ球団では支払えないのです。
そんな事情があるのは他ならぬ選手自身も知っているでしょう。ですが、やはり選手たちも自分の腕一本で自分の人生を歩んでいるプロスポーツの選手。自分の実力がライバルたちからどう評価されているのか、気にならないはずはありません。
ある選手などは「今季は成績が悪かったので年俸は1000万円減で構いませんが、FAでの再契約金を100万でいいから出してください。広島の後輩のためにもFA残留という形を作ってください」と懇願されたにもかかわらず、球団に拒否されています。それどころか、例年チームの主力選手などがFA権を得ると必ずと言っていいほどフロントに近い立場の声―ときにはフロントからのコメントとして―「FA宣言をした時点で放出する」という戦力構想自体を根本からひっくり返すような発言をしていました。
このようにこれまでのカープ球団はFA権行使に関しては頑ななまでにNOを貫いてきたのです。その結果大量の人材流出=戦力低下を招いたことは言うまでもありません。(但し付け加えておくと川口和久投手など個人的な止むに止まれぬ事情でFA移籍した選手もいます)
ですが、今回の黒田の場合は違いました。さすがに球団も日本を代表する(あくまでも実力が、の話。全国レベルで黒田の名前は広島カープ球団のマイナー性もあって知られていない。ただしいわゆるプロ野球全体のファンや関係者からは高評価を得ていることは間違いない)投手の黒田が弱投である現在の広島カープから抜けるとどうなってしまうのか、危機感を感じたようです。
ここで状況を分かりやすくするために、今シーズンの広島カープの先発ローテーションを担った主な投手の成績をリストアップしてみましょう。
黒田博樹 26試合 13勝6敗1S 防御率1.86(リーグ1位)→ここ5年で58勝。今シーズン終盤に怪我で一ヶ月離脱。
大竹寛 30試合 6勝13敗 防御率4.93→昨シーズン10勝したが期待を見事に裏切る。
ダグラス 20試合 9勝6敗 防御率3.41→シーズン途中怪我で離脱。一年通していれば13勝前後は出来たはず。
佐々岡真司 27試合 8勝8敗 防御率4.09→39歳のベテランのため、あと数年しか活躍が見込めない。
ちなみにこれ以外の投手は入れ替わりが激しく、ダグラスは前半戦で怪我をしたため、黒田・大竹・佐々岡の3人に既に退団が決まっているロマノ、ベイルの両外国人の5人でローテーションをまわしていたのです。
これで黒田が他球団に行こうものなら一体誰が先発ピッチャーをやるのかという考えるのも恐ろしい状況だったのです。
そのことに思い至った球団側は早い段階から「FA残留もやむなし」との見解が出ていました。これは先に書いた金銭面的に苦しい広島球団としては異例というか奇跡にも近い判断です。これを聞いたとき、「やっと判ったんだな、現状が」と安心したことを覚えています。
ですが、だからこそ黒田には「FA宣言しての残留」をしてほしかったのです。
あまり考えたくはありませんが、今回の黒田の決断が球団にとって「なんだ、残る奴は残ってくれるんじゃん」みたいな変な甘えが出てくるのではないかという懸念がどうにも拭いきれません。あまり認めたくはありませんが、義理と人情の時代は確実に終わってしまったのです。そして時代の変化を嘆くだけでは時代に取り残されてしまうのです。いい選手を引き止めるには実力に見合った報酬と、そして一番大事なのはフロント・球団職員も含めて勝つための姿勢を見せることです。フロント・球団職員が選手ら現場の人間をいかに戦うための環境にしてあげるのか、勝つために条件を整えてあげるのかという姿勢が見られることを選手たちは望んでいるのだと思います。
ここで球団の体質を変えるというか前例を作っておくことは、そのチャンスがあっただけにもったいないことでした。日本という国の大組織というのは前例がないと何もできないということは他ならない日本国政府が証明しちゃってくれているので、唯一無二のチャンスは無駄にしてほしくなかったです。
黒田ほどの実力と実績を持つ選手には、後輩たちのために道を開拓していくのも持ちし者の仕事だと思うのです。そろそろ球団側には「実力のある選手を引き止めるにはそれ相応の対価が必要」という考え方を身に着けてもいいんじゃないでしょうか?もちろん金さえあれば全て良しなんてことはいいません。しかし野村や前田などのように漢気をみせて残留してくれる選手ばかりではなくなってくる時代なのです。誠心誠意プラス対価(年俸なのか契約年数なのか、それ以外なのか)というスタイルは身に着けておいたほうが今後を考えたときに非常に有利のような気がするのですが。
いずれにせよ、今回の黒田の件で球団が少しでも歩み寄りの姿勢を見せた部分があったことが救いでした。
さて、黒田関係でもう一つ。
前述の通り今シーズン黒田はひじの故障で終盤約一ヶ月戦線離脱をしました。それは別に構わないのですが、怪我から復帰して調整登板をするという情報が流れました。中継ぎで1イニングとかそんな感じだったと思います。
カープファンの中で黒田の存在は神格化されているといっても過言ではないでしょう。そんな状況を示すかのようにその日の球場は異様なムードでした。
試合終盤、広島投手交代の場面でした。事前に情報を知っていたファンは黒田がベンチ入りしていることを当然知っています(もちろん試合前にベンチ入り選手が全員発表されるので試合開始から足を運んでいるファンも知っています)ので「ここで黒田登場か!?」と期待が高まります。
しかし告げられたのは別の投手の名前。もちろんブラウン監督にも考えがあるでしょうしチーム事情というものがあります。ですが、球場の雰囲気がそれすら許しませんでした。名前を告げられた投手に対してブーイングで迎えたのです。自分たちが応援するチームの投手に対して、まして何も変なプレーをしたわけでもないのに。
実は広島ファン、少し前にも同じことやらかしてました。
6月の交流戦でのオリックス戦。試合終盤に怪我でスタメンを外れていた清原を代打で出せということで「清原コール」を始めました。しかしコールされた選手が清原でないと知ると途端にブーイング。いや、そりゃ清原見たいのは分かりますけどね。それはやったらイカンでしょう。
チームにはチームの戦術戦略というものがあるのです。そりゃファンサービスも確かに大事でしょうけど、怪我が完治していなかった当時の清原を無理してまた怪我でもされたらチームのプランってものが大きく崩れることになると思うのです。それを中村監督(当時)は懸念したのだと思います。あの時ブーイングに負けて清原を代打で送り出そうものなら中村監督は監督失格の烙印を押されていたでしょう。もちろん、それが一打逆転のチャンスで在るなら話は別だったんですがね。
ま、そんな前科持ちの広島ファン。はたしてブーイングをしていた人たちには何もしてないのにブーイングの中マウンドに向かうピッチャー(確か永川だったと思うが)の気持ちとか考えたことあるんでしょうか?もし黒田がその出来事が決め手となって他球団へ移籍となった場合、そのファンたちはどうするつもりだったのでしょうか?別にね、あの大きな横断幕とかはいいと思うんですよ。そういう気持ちの伝え方は。というよりそういう気持ちの伝え方じゃないとよくないと思うんですよ。
そういう一部の暴走したカープファンには今一度ファンとして、応援のあり方を考え直していただきたいな、と。
そして最後に、カープ球団にちょっと提言なんですが、そろそろ松田一族の独占経営から脱却するのはどうでしょう?
別に松田一族が私物化しているとかそういうのがいけないとか言ってるわけではないんです。ただ、今の球界の流れの中で経営体制に限界が来ているのではないですか?と疑問を投げかけているのです。
先にも述べましたが、球界全体の年俸の高騰は否定しようがない事実です。そして将来的に優勝を狙える戦力が整ったとして、その戦力を抱えるだけの資金力は今のカープにはないのです。
そこで、広島に本社がある大企業(デオデオ、モルテンなど)などと広島企業連合体などを形成し、それらが資金などを提供。チームの運営費に充てるというのはどうでしょう。主力選手の流出も防げ、あわよくば他球団のFA選手を獲得して補強(おそらく主として投手の補強となると思いますが)チーム力の強化が図れる。他にも球場設備の充実、選手のバックアップなど目に見えない部分でもチームの強化が出来ます。
日本ハム、ロッテのような地域密着型のチームの先駆けたる広島カープがより地域と密着したチームとなるためにも地元企業による連携をまずやってみてはいかがでしょうか?松田一族がカープに対して貢献してきたことは誰もが認めるところではありますが、愛するカープのためにプライドを捨てる時期が来ていると思います。