
ネカフェ珍客列伝その1
はいどうも。
今回のコラムはこれまでと趣向を変えて、かつて店長をしていたネットカフェに来た珍客を何人か紹介したいと思います。
ネットカフェといえば、ここ数年で存在自体が当たり前になってきましたが、俺がこの業界に入った頃はまだまだ店舗数も少なく、利用できるコンテンツも今と比較すると全く大したことの無いものでした。ホントにマンガ喫茶にいくつかパソコンを置いただけという表現がぴたりと当てはまります。
しかしながら、店長を務めさせていただいた約3年間の間にネットカフェと、それを取り巻く環境というものが大きく変わっていったのです。
そしてそれとともに、これまでネットカフェに来たことのないような客層も店に訪れるようになりました。
そしてそれ以上に、いわゆるマニア層も来店するようになりました。
“常識”というのは一人ひとり違うのだなぁ…この言葉を痛感したのはこの時期だと思います。
最初に紹介するのは「居座りRO厨」です。
オンラインゲームというものをご存知でしょうか?かつてのドラクエやFFのようにコンシューマ機で全盛を誇ったRPG。しかしながらそれは一人で世界に没頭するものでした。
しかしそれを根底から覆したのがオンラインRPGです。オンライン上でゲームの世界に接続しているすべてのユーザーと同時間軸でコミュニケーションを図りながら冒険をする…まさにRPGの本来の姿と言っても過言ではないでしょう。
これまでコンピュータの演じるキャラクタに向かってモノを買ったり売ったりしていたのがネットでつながった生身の人間相手に商売が出来たりするのです。
これには俺も一時期大きくハマりました。だって面白いんだもん。
しかし全国的に異常とも言えるハマり方をする人たちが現れました。そう、ちょうど「引きこもり」という言葉と時を同じくするかのように…
その客はほぼオープン当時からの常連客でした。
年はたしか22〜3の男性客で、当時うちでバイトをしていたS織と同じ市営住宅に住んでいて、彼女のお兄さんと知り合いだとかでその素性に関して全く安心しきっていました。
彼は当初から熱烈なリピーターで週に3〜4日は来店し、一度に2000円弱を使って帰るという店にとってはありがたいのですが、「一体この人は何をしている人なんだろう?」と疑問を抱いておりました。
何しろ来店する時間が不定期なんです。
平日の夜とか土日の昼に現れるのなら、仕事帰りに寄ってくれてるんだな、で済むんですが、突如として平日の昼に現れたかと思えば、深夜から朝方まで利用したり。
そしてある時期からさらに不可解な行動を始めました。
それは…
来店したら必ず24時間以上利用する。
利用金額が毎回5000円を越してくる。
長時間パックを入りなおしてまだ居座る。
そしてついに、利用金額が万単位になってきたのです。
それに伴い、お金が足りない、銀行でおろして来ていいか?などとのたまう始末。
恥ずかしい話、それまでも利用金額未払いで逃げた客とかがいたんで、店の方針として例え常連客で顔見知りであってもそういうのは許可してなかったんですよ。てか、自分の持ってる範囲内で遊ぶのって常識だろ。ので、友人にお金を持ってきてもらったりしてその場を凌ぐようになりました。
ある日、いつもの通り出勤し、店の状況を確認しようとフロントのPOSを覗き込みました。
すると、「※24時間経過あり!!※」という表示が出ていました。
店のPOSは親切だったので、24時間以上利用しているお客さんがいるとそうやって教えてくれていたのです。ただ一つ欠点があって、24時間以上かそうでないか、ただその一点でのみしか教えてくれなかったのですが。
そしてそのお客さんはその日俺が帰るまで居続けました。
当時の俺は勤務時間が一日14〜5時間あったので、単純に計算しても連続利用時間が40時間近く。
ですが我々スタッフ側も「ああ、いつものことだな」で済ましてしまっていたのです。
その後、結局それは大きな間違いであったことに気づくのですが。
翌日は本社で会議でした。会議が終わり、店に出勤するとまだ彼がいました。
スタッフに尋ねるとどうやらあれから一度も清算していない様子。連続利用記録を更新していました。
そしてさらに二日が過ぎ、三日が過ぎ…ついに十日が経過しました。
お客さんの利用金額がついに10万を超えてしまいました。
さすがにもうヤヴァイだろうということでお客さんに声をかけました。
利用時間が連続十日以上になっていること、利用金額が10万円を越していること、その金額を払うことが出来るのかということ…
するとその客はこう答えました。
「友達が金を持ってくることになっている。その友達が来るまでお金は払えないけど来たら必ず払うから待っていてほしい。」
しかしそれから一日経ってもお客さんの言う友達は現れませんでした。
そして店を代表して俺がそのお客さんの下へ(当たり前か)。そのお客さんはこう打ち明けました。
「実はラグナロクオンライン(以下RO)でRMT(リアルマネートレード)をやっているんです。で、それで大金を入手したんだけど、その仲間がお金を持ったまま、連絡が取れなくなっちゃってて…連絡さえ取れればお金が払えるんでもう少し待ってもらえませんか?」
※注…RMTはどのオンラインゲームでも禁止されている行為。ゲーム内のアイテムやお金を現実のお金で取り引きすること。
正直言って俺はあきれましたね。二十歳を過ぎた男が何を言っとるんだ、と。
とりあえずRMTという違法行為をしていると分かった以上、退店してもらわなければなりません。
一応ROの公認ネットカフェであった以上、違法行為をしているお客さんを確認しながら見過ごすわけには行きませんでした。それがルールを守って遊んでいるほかのお客さんへの誠意だと思ったからです。
というわけで身柄を確保、お客さんの自宅へ行くこととなりました。
この頃には本社や上司にもこのお客さんのことが知れ渡り、冗談交じりに「まだ清算してないの?」とか言われていたのですが、お金を持っていないということが発覚したため、上司のY野(当時)部長の車で、俺、お客さんという不思議な組み合わせでそのお客さんの自宅に行きました。
お客さんの自宅に着き、まずはそのお客さんがお母さんに自分がまず説明したいと言い出しました。
そりゃそうだ。いきなり見知らぬ男二人(それも黒系のスーツ姿)連れてきて10万以上の金を払えなんて理解することすら出来ないでしょう。
俺とY野部長は外で待機。二人ともタバコを吸いながら待ってました。ふとY野部長が「呑んだくれ君って老けてるよね」と言い放ったのはまた別のお話。
30分かそこら経ったでしょうか。家の中からそのお客さんとご両親が出てこられました。
ご両親曰く、10万超の現金など今すぐ用意できない。必ず払うので数日待ってほしい。とのこと。
この場面だけ見るとまるで俺たちはホントに借金取りみたいですが、何か?
俺たちとしてもお金さえ払ってもらえるならいいのですが、期日だけは決めさせてくれと言いました。ズルズルと待ってたら踏み倒されるかもしれないからね。
最後にご両親から俺たちに、もう息子が店に来ても利用させないで欲しい、と言われました。未払いだけでなく、店と、そして俺との約束を守れなかった彼は以後出入り禁止となりました。
彼のようにオンラインゲームを生活の手段に変えるようではいけません。てか二十歳過ぎてんだったらちゃんと働いて稼げよヽ(`Д´)ノプンプン
オンラインゲームにはまっちゃって、人生を狂わせた方、あの店だけでも何人も知ってます。
そんな方たちの伝説、これから書いていきたいと思いますのでよろしく。